クライメイトゲート事件:いまさらホッケースティック論争?

いまさらながら、クライメイトゲート事件にコメントしてみる。
化学の専門家が科学史上最悪のスキャンダル?! “Climategate” | Chem-Station (ケムステ)で「大変だ—(><)」と随分と盛り上がっているようだし。

事件の発端がセンセーショナルであり、かつCOP15開催前という絶妙のタイミングで起きた事件だけに、マスコミの報道は過熱気味である(ただし日本は除く)。要はマイケルマンのホッケースティック論争の話だが、あれはもう古い話で、なぜいまさら騒ぐのだろうという印象だ。日本の温暖化旗振り役である国立環境研究所の江守氏でさえ、IPCC 第3次評価報告書の時点で、ホッケースティックの図には眉に唾をつけて見ていた(ソース俺)。結局、古気候学の人々からイチャモンが続出して、IPCC第4次評価報告書ではホッケースティックの図は改定された。IPCCもやりすぎであると認めた(?)わけである。

クライメイトゲート事件や上記リンク先に対する反論は2009-12-08によくまとめられているので、一読されたい。

クライメイトゲート事件をことさらにセンセーショナルに騒ぐ理由は簡単だ。米国の反オバマの保守勢力の政局の具になっているから。純粋に科学的な文脈で語られているわけではない。

気候音痴、気象音痴

「大変だ—」と騒いでいるブログの主は化学を専攻する人のようだ。化学や物性を専攻している人ってどうして、気候変動に関するセンスがない人が多いのだろう。そういば以前光化学の専門家がこんな誤解をしていた。要約すると

温室効果は、二酸化炭素などの温室効果ガスが赤外線を吸収し、再放射することで説明される。

しかし、これは間違いである。大気の平均自由行程はとても小さく、分子同士が頻繁に衝突している。だから、二酸化炭素は赤外線を吸収して励起しても、赤外線を再放射する前に他の分子(窒素分子など)に衝突してしまい、せっかく励起されたエネルギーが熱エネルギー(運動エネルギー)になってしまう。したがって、二酸化炭素は赤外線を再放射できない。だから、二酸化炭素温室効果は間違いなのだ!

こんな感じの論調を良く見かける。たとえばこことか。

彼らは局所的熱平衡(LTE)をまるで理解していない。

衝突の緩和時間 << 再放射の時間

の見積もりは正しい。しかし、二酸化炭素は衝突によってエネルギーを失い、窒素分子に運動エネルギーを与える一方で、窒素分子は二酸化炭素に衝突し返して二酸化炭素を再び励起し、二酸化炭素が赤外線を再放射する。このパスを見逃している。

もしこのパスがなかったら、太陽だって光らない。

もし大気において、分子の衝突過程ではなく放射過程が支配的なら、大気全体が温室効果であたたまるのではなく、二酸化炭素だけが温まることになる(そう思っている人も多くてビックリなのだが)。そんなことは日常の体験から考えておかしい。

ミクロとマクロの両方の視点が重要

ミクロな視点からボトムアップに物事を理解するのは良い練習問題だが、マクロな視点も理解していないと間違った結論に達することが多い。上記の事例はまさに典型例である。このような間違い方は、学部生のころに痛い目にあって理解するのが普通である。しかし、ここの人たちは、それをしてこなかったのであろうか。大人になってからのオタフク風邪は重傷になりやすい。


面倒なので、ですます調をやめました。