惑星の温室効果(2)
前回の話をちょっと式で説明してみる。文章よりもわかりやすいかもしれない。Google先生に言われてやって来た大学生にとっても、テスト対策で役立つかも?
平衡温度
放射平衡のときの惑星の温度。次式が成立する。
ここで、は惑星の半径、は平衡温度、はステファンボルツマン定数、はアルベド、は惑星の位置における太陽放射である。左辺は惑星が射出する放射の総量、右辺は惑星が吸収する太陽の放射の総量である。右辺のはアルベドの分だけ吸収する量が減ることを意味する。簡単にすると、
となる。惑星表面における単位面積あたりの放射のバランスを表す式になる。因子1/4は昼と夜を平均し、さらに緯度による違いを平均したために現れると考えてもおっけー。
太陽放射はもちろん惑星と太陽の間の距離に依存し、
である。ここで、は太陽半径、は太陽の有効温度である。地球の場合()はになり、きっちり太陽定数に一致する。
有効温度
天体の放射をとしたとき、つぎの関係式を用いて有効温度を求める。
惑星の場合は、太陽光の反射を除いて、赤外線放射を対象にするのが普通だ。惑星が放射する赤外線のエネルギーを温度を用いて表現しているのだ。で、放射が黒体だと思って温度を求めるわけだ。これは有効温度の定義なので文句を言っても仕方がない。べつに放射が黒体である必要はないが、黒体に近いことを期待している。あまり黒体からかけ離れていると、有効温度ってなんだかわからななくなってしまう。(1) 放射する天体の表面がガチガチに不透明で、(2) 放射が黒体放射の場合には、有効温度は天体の表面温度に厳密に一致する。
まめ知識だが、太陽の場合は上記(1)が満たされていない。太陽はブヨブヨのガスでできているからだ。上記(2)はまぁいい感じで満たされているのだけど。したがって、太陽の有効温度は太陽の表面温度に厳密には一致しない。ブヨブヨなのに表面ってなんだよーという話になるが、細かい話はまた今度。でも、だいたい表面温度と一致する。
求められた有効温度の値の物理的な意味を考えよう。有効温度が放射平衡を仮定した温度(平衡温度)よりも有意に高い場合、その内部に何かの熱源があると考えるのが自然だろう。内部の熱源のエネルギー流束としてを考えると、
となる。
地表温度
文字通りの地表温度である。地表の温度は、惑星が放射するエネルギーを温度に焼き直した有効温度よりも高い。温度差を温室効果に求めると、
が成立する。ここで、は地表温度、は温室効果による放射である。この式は、
地表の放射 = 太陽から受ける放射 + 内部熱源 + 温室効果
という式になっている。温室効果 がどのような物理であるかはここでは問われない。
実際には
これまでは放射によるエネルギーの輸送だけを考えて来た。実際のエネルギーの輸送には放射、対流、熱伝導の三種類がある。気象学では対流・熱伝導というよりは、水による熱の輸送に着目して、顕熱と潜熱に分類する。これらをそれぞれととすると、地表ではつぎのバランスの式が成立する。
この式で係数を導入した。太陽光のうち、反射されなかった成分がすべて地表に到達できるわけではない。実際にはある割合が大気に吸収され、大気を暖める。大気は太陽光にとって完全に透明ではないのだ。たとえばオゾン層がひとつの例だ。この吸収する割合を係数で表した。
そんなこんなで、地表におけるエネルギー収支はこんな感じになる。
上の式の左辺がOutgoing(出てゆくエネルギー)、右辺がIncoming(入ってくるエネルギー)として図示している。また、図中の要素も上の式に現れた項の順になっている。見やすいでしょ?
それぞれの項の見積には、みんな大好きなIPCCのAR4を使った。よく見る図だよね。
この図にも書かれていないのは、内部熱源の。地球の内部熱源の放射はとても小さい。http://wwwsoc.nii.ac.jp/grsj/whatbook/chapter1.htmlによると、地球が発生する熱は42×1012Wらしい。したがって、
と、とっても小さい量になる。他の量はくらいの量なので、地球のエネルギー収支を考える上で内部熱源は無視できる。めでたしめでたし。
次回はエントロピーの話か多層モデル(硬派版)だよー。
そんじゃーねー。