次世代スパコン「京」とHPC人材

 少し古いニュースだが、次世代スーパーコンピュータの愛称が「京」に決まった。「きょう」ではなくて「けい」と発音する。これはピーク性能1京Flops (= 10 P Flops)に由来する。以前このスパコン計画は「京速」と呼ばれていたが、これも同じ由来だ。

 「2位じゃダメなんですか!?」というフレーズで記憶に新しい事業仕分けによって、次世代スパコン計画はいったんは「来年度の予算計上の見送りに限りなく近い縮減」という判定が下され、事実上の凍結の危機に陥った。これに学術業界が猛反発した。とくに野依さんをはじめとするノーベル賞受賞学者の反論が功を奏した形で、次世代スーパーコンピュータ計画は復活した。学者バカ(失礼)が多いノーベル賞受賞学者の中で、野依さんのような政治家(失礼)に加勢してもらえると心強い。

京の特徴は人材育成

 次世代スーパーコンピュータ計画の特徴は、人材育成に力が注がれていることだ。これが事業仕分けが原因なのかどうか分からない。脱ハコモノ、コンクリートから人へ*1、という時代の流れかもしれないし、前回の地球シミュレータの反省かもしれない。いずれにしても、人材育成に力が注がれることは良いことだ。

 前回の地球シミュレータに比べると、その違いは顕著だ。地球シミュレータでは気候・気象・固体地球などの「地球」のシミュレーションに多くの計算時間と資金が配分された。地球シミュレータを所有するJAMSTECにとってはウハウハだった*2。しかし、他の分野にも計算時間は配分されたが、資金的には恩恵はほとんどなかった。つまり、「地球シミュレータを使わせてやるけど、金はあげないよ」という方針だった。例えるなら、「戦闘機を買ってあげる。でもパイロットの養成はないよ」という感じだ。これでは、HPC(High Performance Computing)で良い成果を上げることは難しいだろう。

HPCの人材

 次世代スーパーコンピュータには、HPC(High Performance Computing)の人材育成に多くの資金が投入される。しかし、育てるべき人材の不足に、各分野は苦労していると思う。少なくともボクの分野では苦労している。人材を育てようにも、「種」が不足し「畑」も荒廃しているように思える。

 「種」(=大学院生やポスドク)の不足と「畑」(=教育現場)が荒廃していると感じる。

 大学院生とポスドクの数は多い。ポスドク問題を起こすくらいたくさんいる。しかし、HPCの分野で活躍できそうな良質な種となると、稀少である。優秀な大学院生やポスドクは、とても優秀だ。なかにはボクより優秀な人もいる。でも、とても人数が少ない。人的な層が薄いのだ。

 教育現場では、昨今の大学の予算縮減がボディーブローのように効いている。旧帝大の上位校は資金はそれなりに潤沢なのだが、その下はちょっと怪しい感じの雰囲気が漂っている。競争的資金を拡充して、競争力があるところに資金を集中的に投資することは良いことだが、資金配分が過度にアンバランスなのだと思う。また、競争的資金による一時的な資金では、人材育成には不向きなのかもしれない。これらが人的な層の薄さの原因のひとつではないかと考える。

 今回、HPCの人材育成に資金が投資されたことで、この分野の人材不足が徐々に緩和されてることを願っている。次世代スパコンが一時期のバブルで終わらないように、継続してこの分野を育成してゆく必要がある。

追記

地球シミュレータFFT高速フーリエ変換)で世界一になったという話。

 海洋研究開発機構スーパーコンピューター地球シミュレータ」が、気象や気候変動の分野に使われる計算手法で世界一になった。


 同機構が17日発表した。単純な計算を解くランキング「TOP500」では中国のスパコンが初めて1位を獲得し日本は最高で4位だったが、複雑な計算では世界一を奪還した形だ。

 「地球シミュレータ」は2002年に「TOP500」で首位になったが、その後は海外勢におされ今年は54位だった。1位になったのは、「高速フーリエ変換」という計算の速さを競う国際ランキング。昨年3月に更新したシステムが1秒間に12兆回の計算をこなし、米オークリッジ国立研究所スパコンの11兆回をおさえトップに輝いた。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20101117-OYT1T00908.htm

そもそも地球シミュレータFFTを高速に計算するために作られたマシンだ。気象やGCMのシミュレーションでは、スペクトル法という方法を用いる。スペクトル法の主要なエンジンはFFTだ。

換言すると、FFTに頼ったスキームで計算している気象分野は、次世代の超並列計算機では性能が出ない。いつまでもFFT頼りの計算に未来はない。

さらに、スペクトル法はスケーラビリティーが悪い。速いスパコンを使っても、計算があまり速くならないのだ。球面調和関数で展開という頭の固い方法から脱却しなければ未来がない。

計算スキームの発達は、そのときの計算機の特性に合わせて発展してきたという歴史がある。気象分野も一皮むけるひつようがあるだろう。だから、新しいスキームを開発している人々にもお金を付けましょうと、応援風にしてこのエントリーを終えることにする。

そんじゃーねー。

*1:スパコンはコンクリート製ではないけど。

*2:ちなみに、理事長は文科省からの天下りのである。