宇宙は最もコンパクトな天体か?

前回のエントリーでは、バスターマシン3号が巨大な理由として、木星が比較的コンパクトな天体であることを述べた。このエントリーはコンパクトということにもう少し踏み込んでみたい。

シュヴァルツシルト半径と実際の半径

この図はさまざまな物体について、実際の半径  rシュヴァルツシルト半径 r_g を、質量  M の関数としてプロットしたものである。

ブラックホールにするためにはシュヴァルツシルト半径まで小さくする必要がある。質量が小さな物体ほど、実際の半径とシュヴァルツシルト半径の比は大きく、ブラックホールにするためには、何桁も小さく潰さなければならないことがわかる。一方、質量が大きくなるほど、あまり潰さなくても良い。

とくに最も質量が大きい物体である宇宙は、その半径とシュヴァルツシルト半径が一致していることがわかる。

一様等方な宇宙の質量や半径とはなんぞや?と思うかもしれない。宇宙の大きさを無限に大きいと考えれば、半径と質量は無限になることは明らかである。ここでは、観測可能な宇宙つまり地平線までの半径とその内部の質量を概算した。

どのくらいコンパクトか

この図はそれぞれの天体がどのくらいコンパクトかを示したものである。縦軸はコンパクトさ、横軸は質量である。コンパクトさはO(M/r)で定義されるが、ここでは無次元量にするためにコンパクトさとしてシュヴァルツシルト半径  r_g と天体の半径  r の比
 \frac{r_g}{r} = \frac{2G}{c^2 }\frac{M}{r}
をプロットした。ここで、 G重力定数 cは光速である。

繰り返しになるが、この図は質量が大きいほどコンパクトな傾向であることを示している。質量が最も大きい宇宙が最もコンパクトである。最も巨大な宇宙が最もコンパクトとはなんとも語感に反する結果である。

宇宙の質量と半径の概算

宇宙モデルとして最も単純なロバートソン・ウォーカーモデルを考える。

半径

宇宙の半径を地平線までの距離と過程した。定義により地平線までの距離は

r_h = \frac{c}{H}

と見積もられる。これはハッブル時間(=宇宙年齢の概算) 1/Hの間に光が伝播する距離である。ここで、 Hハッブル定数である。

質量

観測によると宇宙の空間の曲率は限りなく平坦である。したがって宇宙の平均密度は臨界密度
\rho_c = \frac{3 c^2 H^2 }{8 \pi G}
である。したがって、半径  r_h の内部の質量は
 M = \frac{\rho_c}{c^2} \cdot \frac{4}{3}\pi r_h^3 = \frac{c^3}{2 G H}
である。この質量のシュヴァルツシルト半径
 r_g = \frac{2GM}{c^2} = \frac{c}{H}
となる。したがって、宇宙の半径とシュヴァルツシルト半径の比は
 \frac{r_h}{r_g}=1
である。

もう少し

宇宙の密度を \rho_c として、宇宙の大きさとして勘定する半径 r をどんどん大きくしてみよう。その内部の質量は
 M = \frac{4}{3}\pi r^3 \rho_c
なので、コンパクトさは
 \frac{r_g}{r} = \frac{ 8 \pi G \rho_c}{3 c^2} r^2 \propto r^2
となる。大きな範囲を考えるほど宇宙はどんどんコンパクトになることがわかる。
これが宇宙論を考えるとき相対論を基盤にする理由である。なぜなら、相対論はコンパクトな物体(天体)で有効になる物理法則だからである。まぁ、たいていの教科書には書いてあることなんだけどね。